釣りよもやま

釣り雑誌が売れない時代は何を意味するか

かつて、釣り雑誌はこの先ダメになる。と警鐘を鳴らす釣具屋の古老のお話を伺ったことがある。どうも、一過性のもの追ったり、女性の写真ばかり載せて週刊誌のようになっている。これでは長続きしない、と。

 

なるほどごもっとも。それではさようなら。

率直な感想はそんなところだった。通り一遍のことをいわれたって響きはしない。

こちとら、編集者であり、片手で数えられるころからの釣り人だ。いわれなくとも、わかっちゃいるんだ。でも、どうしようもないんだな。雑誌の凋落と売り上げ減は、わかっていても止められないところまできている。ポリシーだとか、ロマンだとかいっていられない。というか、そういうところに絞り込んだ雑誌はもう、売れない。開高健はすでに居ないのだ。これからこしらえるのも、版元の体力が足りていない。

 

などと一席打ちはじめてしまうのだけれども、この一席だって雑誌にとっては敵も敵でしょう。拙い文章ですが、暇潰しくらいにはなる。そんなものをほうぼうで、各々が無料で書いてしまう。誰かの駄文は、誰かの心を打つ。この夏、中高生が立ち上げたようなブログでも、一生懸命、興奮をあらん限りの言葉で切り取っていれば、いい年をこいてワクワクして読んでしまう。熱中症に気をつけて釣れよだとか、こんな暑い時期に魚を地面に置くな!置いたら持って帰れ!!だとか。色々思いながら読む。書き手側すら、この始末。読むだけの人間からすれば、よほどネットの方が読みやすくて、楽しいということになるだろう。

 

そこに広告がついたりした日にはどうか。数百人見にきたら1円、2円と広告収入があるなら、雑誌に原稿を書くのと大差なく、締め切りもないしこっちでいいやーとなるだろう。釣り雑誌は釣具の広告しか載っていないが、ネット広告はページマッチ(そのサイトのページに沿った広告を出す)だとか、読者の嗜好をあらかじめ読み取っていて、それにあったものを自動で提示したりする。参入してくるのは釣具メーカーだけじゃない。広告枠は入札制だから、全業種がライバルで、不動産や保険、いやらしいものなんかが参入してくると、広告費的に勝ち目なしだ。だから、仕方なく、雑誌に広告を出すけれど、やっぱりこれも無策と大差ないわけで。

 

読者、版元、広告主、誰もが得をしない、苦しい時代だ。無料情報誌への広告提案で大当たりして、チヤホヤされた時期がある私も、5年ほど経ったいま、かつてのような顧客流入がなくなって、「先生、どうすればいいんですか」などといわれている。普段「先生」などと呼ばないのに。つまり、嫌味だ。

 

はっきりいって、紙媒体の力は落ちている。10年前の半分くらいに。だからこそ、なにか手を打たなければならない。例えば、雑誌という読み捨て形式のものではなく、しっかりとした厚い紙を用いて、写真集の方向へ舵を切るなどするしかないかもしれない。ポートレートとして額縁に入れて飾れるような、豊かな自然のフォトグラフ。なんかそんな調子こいた。文化的な方向だとか。

 

とはいえ、それもいつまでもつかという話になってくる。4Kだ8Kだ、16Kだとすさまじい画質で撮影される時代、紙への印刷技術はこれに追いつけない。そもそも紙は拡大できない。スマートフォンやタブレット、PCは指先一つで見たい部分を拡大できるし、超高画質時代なら画質の低下もそこまでではない。さらに、写真のように見えて音が出る、映像として動かして見せることができるなどとなってくれば、紙媒体が土俵に上がるのは難しい。

 

すでに海外の釣り雑誌はとうの昔に月額会員制の電子書籍になっている。しかも、1冊1ドルとか、わけがわからないような金額で。電子書籍なら、広告を誰がどれだけクリックし、いくらの製品を買ったかまですぐに把握できる。紙だと広告の効果測定は難しいし、スピード感もない。新聞や雑誌は広告収入で成り立っているのだから、アメリカなどはこのあたりがとてもドライで論理的だ。なんでもかんでも欧米礼賛もしたくないが、さっさと変わらないと、若い世代に見捨てられれば、産業自体が終わってしまう。

 

にも関わらず、釣具メーカーや雑誌だけでなく、漁協まで若い人が好きな釣りを締め出して、(失礼承知で)老い先短い面々に注力しているのだから、救いの道はないのかもしれない。彼らが釣りを辞めたとき、もしくは浄土からの糸に釣り上げられたとき、日本の釣りとフィールドは終わってしまうのかもしれない。

 

それだけは、頼むからそれだけは勘弁してくれと強く思う。釣り人がいなくなれば、水系の理解者はほぼゼロになる。人間は興味のないことにはどこまでも冷徹になれるから、水系の破壊だって平気だ。釣りができなくなることだけじゃなく、国土の保全面といった壮大なスケールで「マズい」わけだ。

 

お金と人があるうちに手を打ってもらいたいし、手伝えるならば手伝いたい。釣り業界は、舵を切る方向を間違ってはいないだろうか。

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