ルアーの原点

ルアー誕生秘話:そしてそれは起こった

1890年代、友人が来るのを待っていたジェームズ・ヘドンは、暇つぶしに木片にナイフを入れていた。今のようにインターネットどころか携帯電話もない。友人との約束は待つこととの戦いでもあった。いまの子たちには、とても想像もできないかもしれないが……。

 

彼が木片を削り終え、池に投げ捨てると、その木片に勢いよく魚が飛び出した。なんということだ!この瞬間、彼の人生は決まってしまったのだ。どうということもない、味も香りもないただの木片に、魚が飛び出す何かがあることを彼は確かに感じ取った。プラグによるルアーゲーム誕生の瞬間である。

 

彼が作りはじめたハンドメイドルアーは仲間内で評判を呼び、いわゆる物好きのあいだで広がりを見せた。餌ではなく、プラグで釣る。魚を食べられないもので騙して釣る。人と魚の知恵比べ……。LUREの名のとおり魚を魅了することに、人間もまた、すっかり魅了されてしまったのだ。

 

大量生産もできない時代、今とは比べものにならないくらい高価だったプラグは飛ぶように売れた。とても生産が追いつかなかったし、何より足りなかったのがフックだった。戦争で資材が高騰しはじめると、空き缶を利用してフックを作った。ときには客にフックの材料を用意させたこともあった。それだけ当時のルアーには魅力があったといえるかもしれない。

 

ミミズを投げれば夕飯は用意できるだろう。餌もルアーを買わなければ、その金でより簡単に食事はできよう。しかし、そうはしない。ルアーで魚を釣ることの本質がヘドンにも、当時の人々にも見えていたに違いない。彼らにとってそれは、簡単に手に入る3ポンドのステーキ肉より価値があったはずだ。

 

彼が作りあげたザラゴッサは、現在もザラスプークとして販売されている。形状や素材は変わったが、ルアーの原点、理念は受け継がれているものと思う。いいものは変える必要がないということの証左ではないだろうか。そしてそれは、現代のバスゲームにおいても同じだろう。魚との知恵比べ、あえてルアーを用いるハンデ戦。ルアーゲームの本質と理念は、120年経った今も変わらないし、変えてはならないと思う。

 

人生を変える木片の魅力を、あなたにも感じてもらいたい。

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