ドイツの脱原発がよくわかる本
こういった本の書評を書く場合、どうしてもその内容をさらってしまい、「買って読まなくてもいいんじゃないか」と読者に思わせてしまう。完全に営業妨害になってしまうわけだが、本書の著者はドイツで暮らす日本人。それだけで我々より原発を廃止すると決めた最先進国(らしい)ドイツの内情に詳しく、これからの日本のエネルギーを考えるうえで示唆に富む内容となっている。
こういった本を読む方は、なにがなんでも、今すぐにでも、原発を国内から消し去りたい方だと思う。しかし、著者は声高に日本の政策を批判し、ドイツのすばらしさを説き、理想の世界の到来を夢見る夢追い人ではない。と同時に、本書もそのような内容にはなっていない。
とかくドイツ人は世界に冠たるゲルマン民族といわれたい生き物である。脱原発というものが正しいのであれば、目の前の正しさのために将来重大な問題が発生するとしても突き進む。目の前の正しさを実現し、世界からすばらしい、一番だといわれたくて仕方がないのだ。対外的に評価されることでしか、自身の価値を見出せない民族はどこかの島国にもみられるが、偉い!といって欲しくて仕方がない民族だということを、まず念頭に置いて欲しい。
そうして読み進めていくと、ドイツが脱原発に舵を切った結果、電力事業に大きな打撃を与え、電気代はあがり、金持ちはクリーンエネルギーの補助金とそれに付随する事業で儲けるという、貧乏人だけが損をこく国が完成しつつあるらしい。さらには、原発反対として運動していた面々が、クリーンエネルギーの発電施設設置やそのための送電線の設置に景観破壊による観光産業の衰退や動植物の保護を理由に大反対しているという矛盾。一体どうしろというのか。読んでいてドイツ人民がさっぱりわからなくなった。
天候に左右されるクリーンエネルギーはベースロード電源にはなりえない。天候のよくない日や夜間、発電量がゼロになることを考えれば、そのときのために予備の発電施設が必要になる。我が家の太陽光発電を見ていると、くもりの日は晴れの日の10分の1以下しか発電しない。では、くもりの日に備えて普段は使わない十何倍もの発電設備を構えておかないといけないのだろうか。無駄の極みではなかろうか。雨が降ったらどうするのだろう。つまり、予備の発電施設までクリーンエネルギーにしてしまうと、全戸停電するだけ。そうなっては困るわけだが、原発が使えない以上、火力や水力といった方法で、自然破壊を行わなければならない。ましてやドイツは平地で水力発電に適さない。原発を止めた結果、安定的な電力供給のために火力発電を使い、さらに発電コスト低減のために安価な燃料の褐炭を使うものだから二酸化炭素をバンバン排出している。クリーンな世界が遠ざかっているのが現状のようだ。
それでも、正しいことである反原発のためなら、正しくないこと、取るに足らない瑣末な問題は無視してよいというのがゲルマン魂。移民受け入れ問題もそういったところに根元があるのではないか。正しいことなのだから、それによって大きな問題が別個発生しても、無視してよい。偉いといってもらうことが最重要なのだ。正しいことのためにという発想は、70年以上前の戦争のときにもあったのかもしれない。ゲルマン民族(アーリア人)は優秀だから、それに劣り、悪影響を与える民族は除くことが当然。もし本当にゲルマン民族がもっとも優秀で、人類の先端を往く種族であるならば、黒人やその他の白人、我々黄色人種はよろこんで死ぬべきということになるが、それでいいのか。私はどうにもそんな理由では死ねそうにない。
原発は絶対悪。翻って、正義のためには道理は引っ込めという発想は、どうにもここに帰着する気がしてならない。正しいことのためなら、何をしてもいい。結果、世界が正しくない方向に進んでも。そんな発想を受け入れられるかどうかが鍵となる。少なくとも私はそんな劇薬を服用する気にはなれない。本書はその劇薬を飲むかどうかを考えるうえで非常に大切な視点をあたえてくれる。エネルギー問題を考えたいという方は、一度目を通してみてはいかがだろうか。
【蛇足】
私の原発へのスタンスは、そのうち全廃派。私の寿命が尽きるころ(30〜50年後)に技術革新があり、別の方式で原子力の分を穴埋めできればいい(火力や水力は減らしつつも維持する必要はあるだろう)と思っている。原発推進派と思われては困るので最後に付しておくが、私は再生可能エネルギー事業に借金してまで億単位で出資している。私と私の家族が生きている間に使う電気は、見かけ上100%クリーンエネルギーにしたいと思ったからだ。これは小学生のころからの夢だった。原発反対を訴える方も、こんなことをしている方は稀だろうから、「私の姿勢を批判なさるなら、まずはクリーンエネルギーの実利のために動いてからにしてください」といってやろうと思っている。
昔から口より先に手が出る性格なんです。
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ドイツの脱原発がよくわかる本 [ 川口マーン惠美 ] |
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