特殊清掃  #005

ルポ, 書評

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『特殊清掃 死体と向きあった男の20年の記録』(特掃隊長/ディスカヴァー)

 

文学的な読み物としてまとめようとしている本書であるが、そういったものは「特殊清掃」という凄惨極まる世界を口当たりよくしているだけではないか。この一点で大変に損をしているように思う。元はブログであり、それを手直しした上での出版のため、くだけた感じになっているのかもしれない。日々の現場の3Kっぷりをつらつらとブログにまとめていたら、それこそ自身が潰れてしまう。フランクに、笑い飛ばせるくらいの文体を心がけて書かれたのかもしれない。

 

ただ、ブログで読む分には秀逸であるが、紙媒体として一気に読み下すとなると、様々な点が気になる。内容的には「怪しい仕事」の内実が上手くまとまっており、特殊清掃ってどういう仕事なんだろう、という方にはオススメできる。

 

私自身、深夜の特殊清掃のアルバイトをしていたためによくわかる。特殊清掃の現場を知っていて、そこにたちこめる異臭ないし、特有の水蒸気が容赦なく鼻孔に突進してくる様は、文学ではありえない。文学を美とすれば、あれほど美とかけはなれたものもなく、美醜の醜を担当するならば、ありのままの醜態をもって綴られるべきではなかろうか、と。昭和大衆文学を軽々と越えていく世俗の極致がそこにはある。

 

人として、凄惨な特殊清掃、特殊引っ越しの現場の悲哀を事細かに描写していくとなると、どうあっても耐えられない。狐憑きともいわれるが、現場では精神に異常をきたす人間は少なからずいる。私は死体の痕がどうのというのはそこまで気にしなかったが、それでも精神のバランスを崩したようで、自身の部屋をゴミ屋敷にしてしまったことが何度もある。最近ではそのようなことも減ったものの、ああいう振り切ってしまった極限を見ていると、部屋に腐敗した生ゴミの袋がふたつ、みっつあるくらい、脱ぎ散らかした服があるくらい、どうということはないと思ってしまう。気をつけていなければ、フラッシュバックのようにゴミ屋敷の悪霊が頭をもたげてくるのは、いい時給に釣られた阿呆が背負うべき十字架なのかもしれない。

 

畳のフチにこぼれ落ちた、人間だった何か。人は死ぬと溶けていくのです。人の形を失ってなお、人であったことを知らせるその痕跡は、芸術とは最も遠い位置にあり、ヒトの業の終わりを感じさせます。

 

 

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