05.24
嫌いなことでも好きになれる。
大相撲の世界で通算最多勝といえば2016年夏場所の時点で元大関魁皇の浅香山親方でありますが、すでに幕内最多勝は白鵬に塗り替えられ、あと4場所全勝(60勝)となれば通算勝利数も並ばれるという状況。2場所負け越しで強制的に引退させられる横綱と、その心配のない大関。もはやその価値についての論議もなされなくなりましたが、それでも積み上げることの辛さ、年齢を重ねても大関という地位にしがみつく姿は、みすぼらしいという声が挙がると同時に、中年の心を打つものがありました。
若貴時代の無気力相撲や八百長問題、大関互助会と揶揄されたカド番大関に星を与えているかのような相撲内容、野球賭博に傷害事件、麻薬、弟子のかわいがり……。大相撲が前時代的な競技から、現代のスポーツに変わる時期に在籍した、昔ながらの愚直なお相撲さん。それが魁皇(現浅香山)でした。
蒸し返すようですが、現時点で白鵬は3位にあって通算987勝で202敗。2位は横綱千代の富士で1045勝の437敗。1位が大関魁皇の1047勝700敗。勝率という観点から見ると、とても2横綱と比べる気にもなりませんが、晩節がどうのなどどこ吹く風で相撲を取り続けた苦労人でもあります。
取口は左四つに組み止めてから右で打つ豪快な上手投げと小手投げ。掴まれたらまわしがグチャグチャになるほどの握力と怪力で相手の体勢を選ばずに振り回すため、相手を壊す破壊王などと揶揄されることもありましたが、同時に無理な相撲を取ることで自身もまた怪我に泣くことが多かった大関です。
そんな氏は、そもそも体格の良さだけで柔道や相撲を取っていたわけで、相撲自体が好きではなかった。圧倒的な体格ゆえに、やれば勝てる。そのうち噂が噂を呼び、相撲部屋に入れるため外堀が埋められていくわけですが、勝負師として似つかわしくない「気は優しくて力持ち」な魁皇は、相撲は嫌だということもできず、そのままズルズルと相撲部屋へ。氏の中には断りきれない甘さ、弱さが潜んでいるのです。
悪意のもとに相手を破壊していたわけではないことは、氏の人柄を見ていればわかります。また、相撲を見たことがなくとも、本書を読んでいれば何か決めることができない優柔不断さ、優しすぎる性格は端々に滲みます。しかし、相撲に対する姿勢だけは揺るがない、一本筋の通ったものを持っている。このまったく異なる2つの顔を持つ魁皇。私自身、親方となり後進の指導をするといったとき、怪我に苦しみ、長く相撲を取ったことや、持ち前の優しさから、「いまどき」の相撲部屋を起こすのであろうと思っておりました。ところが実際は真逆。親方として昭和の厳しい相撲の形を継承したのです。
昭和の相撲といっても、青竹やビール瓶で顔の形が変わるほどぶん殴るといったものではありません。験直しに酒を飲むにしても外で深酒をするのではなく、部屋でわきまえた量を飲む。気分がよくなっても、翌日に疲れが残るようなことはしてはいけないといった考えで、豪快で後先を考えない昭和とも一線を画す、理不尽なほどの厳しさと理詰めの稽古で関取を育てる方針が、どこまで相撲の世界に通用するか。いま、魁皇の第二の人生に期待が寄せられています。
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嫌いなことでも好きになれる。 [ 魁皇博之 ] |
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